2016年4月30日(土)

(4月30日まで開催中)『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』刊行記念ブックフェア「信じぬく女たち」

栗原康著『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波書店)
刊行記念ブックフェア

信じぬく女たち
伊藤野枝は28歳でリンチにあい絞殺され、遺体は古井戸に投げ捨てられて人生を終えた。
大杉栄の愛人であり自身もアナキスト、平塚らいてうの創刊した「青鞜」で、恋や愛や結婚、はたらくこと、性について、友情について、そしてこの世を生きていくことについて高揚しながらひたすらに書きつづけた。
伊藤野枝を説明するとき、肋骨をばきばきに折られ古井戸に投げ捨てられた話からはじめてみる。みんなその鮮烈さに食いついてくるからだ。彼女のエピソードを読むととても派手で、彼女自身が書き記した文章もアジテーションのごとくはげしいものが多く、習俗打破、習俗打破、とにかくこの世にまかり通った〈常識〉をぶち壊してやるという力に満ちあふれている。
だがしかし。そのはげしさにばかり目がいってしまって、なにかを見過ごしているような気もする。
くやしさやさびしさはなかったのか。かなしみは、なかったのか。黙っていても涙がにじみ出てくるほどの、くやしさ、さびしさ、かなしみ。それでも、どんなにつらくても、考えて考えて、なにかにたどりつこうとする力。
野枝のいちばんの魅力は、アホみたいに純粋な部分があるところだ。彼女はじぶんの信じている目には見えないなにかを、とにかくことばにしようとしていた。書いている内容もすごいけれど、それを信じ抜いて、古井戸に打ち捨てられるまで生を貫き通した、その信念がすごい。

ここにあるのは、伊藤野枝のようにじぶんの信じるものをことばに託し、自分自身と、そして他者と向き合いつづけたひとたちのたましいの書物だ。みんな、国も時代もちがうけれど、共通するのは「信じ抜く」という姿勢を崩さなかったこと。のこされたことばはその生の結晶である。
力を持ってるやつに屈服するな。いなそうとしてくるやつを信頼するな。常識を振りかざしてくるやつらに絡めとられるな。
信じろ。己を信じろ。恋を信じろ。筆を信じろ。詩を信じろ。かなしみを信じろ。さびしさを信じろ。くるしさを信じろ。じぶんのための、だれかのための、夢を信じろ。真顔で見つめ合って真剣に過ぎていった夢のような瞬間、そこで交わしたことばを信じろ。信じて信じて信じて、信じ抜け。

栗原康著『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波書店)
刊行記念ブックフェア
信じぬく女たち
紀伊國屋書店新宿本店 2階 棚番号C1
2016年4月1日(金)よりスタート

フェア選書の一部をご紹介します↓

村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝

村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝

栗原康 / 岩波書店
2016/03出版
ISBN : 9784000022316
価格:¥1,944(本体¥1,800)

筆一本で結婚制度や社会道徳と対決しつづけた伊藤野枝.その思想,人間像に,気鋭の政治学者・栗原康さんが迫ります.
本書に引かれた野枝の言葉が,とにかく強い!
「不朽の恋を得ることならば,私は一生の大事業の一つに数えてもいいと思います」
「あなたは一国の為政者でも私よりは弱い」
「ああ,習俗打破! 習俗打破!」
そして,野枝に恋する大杉栄が憑依したかのような,栗原さんの文章のグルーヴ!
進学.恋.結婚.仕事.子育て.そこに立ちはだかる,こうあらねばならぬというプレッシャー.世間.国家.それでも,学ぶことに,書くことに,食べることに,恋に,性に,生きることすべてに,野枝はわがままを貫きとおします.野枝には,優先順位がわかっていたのです.大切なのは,ただひとつ.おのれのわがままに徹すること.不倫上等.淫乱よし.自分のことは自分できめる.自分でやる.なんとでもなる.なんでもできる.
恋とは? 愛とは? 生きるとは?――読みながら自問させられます.じわじわと自分の人生を自分に取り戻す力が湧いてきます.野枝の思想を生きることは,わたしたちにもできること.今の時代にこそ,きっとだいじなこと.野枝に出会ってください.恋してください.
(編集者からのメッセージ)

 

大杉栄伝 永遠のアナキズム

大杉栄伝 永遠のアナキズム

栗原康 / 夜光社
2013/12出版
ISBN : 9784906944033
価格:¥2,160(本体¥2,000)

暗い時代に乱れ咲く生の軌跡。
米騒動、ストライキ、民衆芸術論…。
破天荒な生き方というだけでは語りつくせない、その思想に光をあてた、新たな評伝の登場。[ウェブストア書誌より]

 

はたらかないで、たらふく食べたい 「生の負債」からの解放宣言

はたらかないで、たらふく食べたい 「生の負債」からの解放宣言

栗原康 / タバブックス
2015/04出版
ISBN : 9784907053086
価格:¥1,836(本体¥1,700)

負い目を背負って生きることを強いられる「生の負債化」に警鐘を鳴らし新自由主義の屈折した労働倫理を糾弾する、爆笑痛快現代社会論現実社会の秩序を疑え。
「生の負債化」に甘んじるな。大杉栄、伊藤野枝、幸徳秋水、はたまた徳川吉宗、一遍上人、イソップ物語、タランティーノ…
あまたの思想、歴史、芸術から今を生き抜くあたらしい論理を構築しつつ、
合コンも恋愛もあきらめない、非労働系男子研究者のたたかいの日々の記録。[ウェブストア書誌より]

 

断髪のモダンガ-ル 42人の大正快女伝

断髪のモダンガ-ル 42人の大正快女伝

森まゆみ / 文藝春秋
2010/12出版
ISBN : 9784167421052
価格:¥720(本体¥667)

数奇な運命の女優川上貞奴、愛したのは年下ばかりの平塚らいてう、『山梔』の著者野溝七生子ら大正女性の現代にも通じる生き様。[ウェブストア書誌より]

 

『青鞜』の冒険 女が集まって雑誌をつくるということ

『青鞜』の冒険 女が集まって雑誌をつくるということ

森まゆみ / 平凡社
2013/06出版
ISBN : 9784582836271
価格:¥2,052(本体¥1,900)

女性による女性のための雑誌『青鞜』の歩みを、平塚らいてうや伊藤野枝らの生き方とともに、また100年後に著者自身が営んだ地域雑誌『谷根千』を引合いにしながら丹念に追った意欲作。[ウェブストア書誌より]

 

ルイズ 父に貰いし名は

ルイズ 父に貰いし名は

松下竜一 / 講談社
2011/09出版
ISBN : 9784062901345
価格:¥1,620(本体¥1,500)

一女性の人生に昭和を透視。
記録文学の名作虐殺された大杉、野枝の遺児。
革命家の名と「主義者の子」の十字架を負いながら平凡に生きてきた彼女に訪れた目覚めを描く感動作。[ウェブストア書誌より]

 

工場日記

工場日記

シモ-ヌ・ヴェイユ、田辺保 / 筑摩書房
2014/11出版
ISBN : 9784480096463
価格:¥1,296(本体¥1,200)

人間のありのままの姿を知り、愛し、そこで生きたい――女工となった哲学者が、極限の状況で自己犠牲と献身について考え抜き、克明に綴った、魂の記録。[ウェブストア書誌より]

 

書く女

書く女

永井愛 / 而立書房
2016/01出版
ISBN : 9784880593913
価格:¥1,620(本体¥1,500)

『たけくらべ』『にごりえ』などの名作を残し、24歳で早世した樋口一葉。
「熱き涙」を流す人から、「冷ややかに笑う」作家へと変貌してゆく一葉の”宇宙”を人々との豊かな交流の中に描く。[ウェブストア書誌より]

 

自分ひとりの部屋

自分ひとりの部屋

ヴァ-ジニア・ウルフ、片山亜紀 / 平凡社
2015/08出版
ISBN : 9784582768312
価格:¥1,296(本体¥1,200)

女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分一人の部屋を持たねばならない――〈女性と小説〉の歴史を熱く静かに紡いだ名随想の新訳。[ウェブストア書誌より]

 

インゲボルク・バッハマン全詩集

インゲボルク・バッハマン全詩集

インゲボルグ・バハマン、中村朝子 / 青土社
2011/01出版
ISBN : 9784791765799
価格:¥4,104(本体¥3,800)

20世紀最大の詩人パウル・ツェランとの波瀾に満ちた悲恋があまりにも有名な、オーストリア生まれの才媛バッハマン。
新時代の到来を感性豊かに捉え、不条理の世界と真摯に向きあう―。
ツェランとの「往復書簡」刊行を契機に、世界的注目を集める詩人の、全詩作を日本初公開。[ウェブストア書誌より]

 

私は生まれなおしている 日記とノ-ト1947-1963

私は生まれなおしている 日記とノ-ト1947-1963

スザン・ソンタグ、デイヴィッド・リ-フ / 河出書房新社
2010/12出版
ISBN : 9784309205540
価格:¥3,456(本体¥3,200)

「生きることを愛し、死ぬことを憎みたい―」彼女が”ソンタグ”になる前の一人の女性の凄烈な姿が、ここに。
20世紀アメリカを代表する知識人による、14歳から30歳までの日記とノート。
激動する時代と個人のあらわな記録。[ウェブストア書誌より]

 

人間の条件

人間の条件

ハンナ・ア-レント、志水速雄 / 筑摩書房
1994/10出版
ISBN : 9784480081568
価格:¥1,620(本体¥1,500)

条件づけられた人間が環境に働きかける内発的な能力、すなわち「人間の条件」の最も基本的要素となる活動力は、《労働》《仕事》《活動》の三側面から考察することができよう。ところが《労働》の優位のもと、《仕事》《活動》が人間的意味を失った近代以降、現代世界の危機が用意されることになったのである。こうした「人間の条件」の変貌は、遠くギリシアのポリスに源を発する「公的領域」の喪失と、国民国家の規模にまで肥大化した「私的領域」の支配をもたらすだろう。本書は、全体主義の現実的基盤となった大衆社会の思想的系譜を明らかにしようした、アレントの主著のひとつである。[ウェブストア書誌より]

 

存在することの習慣 フラナリ-・オコナ-書簡集

存在することの習慣 フラナリ-・オコナ-書簡集

フラナリ-・オコナ-、サリ-・フィッツジェラルド / 筑摩書房
2007/03出版
ISBN : 9784480836434
価格:¥4,536(本体¥4,200)

O・ヘンリー賞を4度受けた短篇の名手、フラナリー・オコナーの精神の記録。
死を見つめながらも、自らを作家へと育てた成長と成熟の軌跡をたどる。
本邦初訳。[ウェブストア書誌より]

 

シャネル 人生を語る

シャネル 人生を語る

ポ-ル・モラン、山田登世子 / 中央公論新社
2007/09出版
ISBN : 9784122049178
価格:¥925(本体¥857)

一九四七年、シャネルの聞き語りをまとめた唯一の自伝。
才能を華開かせ一大モード帝国を築いたカリスマの知られざる半生記が忠実な訳によって甦る。[ウェブストア書誌より]

 

葭の渚 石牟礼道子自伝

葭の渚 石牟礼道子自伝

石牟礼道子 / 藤原書店
2014/01出版
ISBN : 9784894349407
価格:¥2,376(本体¥2,200)

水俣水銀中毒事件をモチーフに『苦海浄土』という”世界文学”を書き上げた石牟礼道子とは何者か? 葭が茂り、その茎から貝たちがいっせいに海に飛び込むような美しい不知火海で生まれ育ち、今も不知火海の傍で生活する石牟礼道子。
前史を含め、幼少期から戦争体験を経て、高度経済成長へと邁進する中で、『苦海浄土』を執筆。
「近代とは何か」を、失われゆくものを見つめながら描き出す白眉の自伝。[ウェブストア書誌より]

(新宿本店・梅﨑実奈)

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