栗原康著『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波書店)
刊行記念ブックフェア
信じぬく女たち
伊藤野枝は28歳でリンチにあい絞殺され、遺体は古井戸に投げ捨てられて人生を終えた。
大杉栄の愛人であり自身もアナキスト、平塚らいてうの創刊した「青鞜」で、恋や愛や結婚、はたらくこと、性について、友情について、そしてこの世を生きていくことについて高揚しながらひたすらに書きつづけた。
伊藤野枝を説明するとき、肋骨をばきばきに折られ古井戸に投げ捨てられた話からはじめてみる。みんなその鮮烈さに食いついてくるからだ。彼女のエピソードを読むととても派手で、彼女自身が書き記した文章もアジテーションのごとくはげしいものが多く、習俗打破、習俗打破、とにかくこの世にまかり通った〈常識〉をぶち壊してやるという力に満ちあふれている。
だがしかし。そのはげしさにばかり目がいってしまって、なにかを見過ごしているような気もする。
くやしさやさびしさはなかったのか。かなしみは、なかったのか。黙っていても涙がにじみ出てくるほどの、くやしさ、さびしさ、かなしみ。それでも、どんなにつらくても、考えて考えて、なにかにたどりつこうとする力。
野枝のいちばんの魅力は、アホみたいに純粋な部分があるところだ。彼女はじぶんの信じている目には見えないなにかを、とにかくことばにしようとしていた。書いている内容もすごいけれど、それを信じ抜いて、古井戸に打ち捨てられるまで生を貫き通した、その信念がすごい。
ここにあるのは、伊藤野枝のようにじぶんの信じるものをことばに託し、自分自身と、そして他者と向き合いつづけたひとたちのたましいの書物だ。みんな、国も時代もちがうけれど、共通するのは「信じ抜く」という姿勢を崩さなかったこと。のこされたことばはその生の結晶である。
力を持ってるやつに屈服するな。いなそうとしてくるやつを信頼するな。常識を振りかざしてくるやつらに絡めとられるな。
信じろ。己を信じろ。恋を信じろ。筆を信じろ。詩を信じろ。かなしみを信じろ。さびしさを信じろ。くるしさを信じろ。じぶんのための、だれかのための、夢を信じろ。真顔で見つめ合って真剣に過ぎていった夢のような瞬間、そこで交わしたことばを信じろ。信じて信じて信じて、信じ抜け。
栗原康著『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波書店)
刊行記念ブックフェア
信じぬく女たち
紀伊國屋書店新宿本店 2階 棚番号C1
2016年4月1日(金)よりスタート
フェア選書の一部をご紹介します↓
栗原康 / 岩波書店
2016/03出版
ISBN : 9784000022316
価格:¥1,944(本体¥1,800)
本書に引かれた野枝の言葉が,とにかく強い!
「不朽の恋を得ることならば,私は一生の大事業の一つに数えてもいいと思います」
「あなたは一国の為政者でも私よりは弱い」
「ああ,習俗打破! 習俗打破!」
そして,野枝に恋する大杉栄が憑依したかのような,栗原さんの文章のグルーヴ!
進学.恋.結婚.仕事.子育て.そこに立ちはだかる,こうあらねばならぬというプレッシャー.世間.国家.それでも,学ぶことに,書くことに,食べることに,恋に,性に,生きることすべてに,野枝はわがままを貫きとおします.野枝には,優先順位がわかっていたのです.大切なのは,ただひとつ.おのれのわがままに徹すること.不倫上等.淫乱よし.自分のことは自分できめる.自分でやる.なんとでもなる.なんでもできる.
恋とは? 愛とは? 生きるとは?――読みながら自問させられます.じわじわと自分の人生を自分に取り戻す力が湧いてきます.野枝の思想を生きることは,わたしたちにもできること.今の時代にこそ,きっとだいじなこと.野枝に出会ってください.恋してください.
(編集者からのメッセージ)
栗原康 / 夜光社
2013/12出版
ISBN : 9784906944033
価格:¥2,160(本体¥2,000)
米騒動、ストライキ、民衆芸術論…。
破天荒な生き方というだけでは語りつくせない、その思想に光をあてた、新たな評伝の登場。[ウェブストア書誌より]
はたらかないで、たらふく食べたい 「生の負債」からの解放宣言
栗原康 / タバブックス
2015/04出版
ISBN : 9784907053086
価格:¥1,836(本体¥1,700)
「生の負債化」に甘んじるな。大杉栄、伊藤野枝、幸徳秋水、はたまた徳川吉宗、一遍上人、イソップ物語、タランティーノ…
あまたの思想、歴史、芸術から今を生き抜くあたらしい論理を構築しつつ、
合コンも恋愛もあきらめない、非労働系男子研究者のたたかいの日々の記録。[ウェブストア書誌より]
森まゆみ / 文藝春秋
2010/12出版
ISBN : 9784167421052
価格:¥720(本体¥667)
森まゆみ / 平凡社
2013/06出版
ISBN : 9784582836271
価格:¥2,052(本体¥1,900)
松下竜一 / 講談社
2011/09出版
ISBN : 9784062901345
価格:¥1,620(本体¥1,500)
記録文学の名作虐殺された大杉、野枝の遺児。
革命家の名と「主義者の子」の十字架を負いながら平凡に生きてきた彼女に訪れた目覚めを描く感動作。[ウェブストア書誌より]
シモ-ヌ・ヴェイユ、田辺保 / 筑摩書房
2014/11出版
ISBN : 9784480096463
価格:¥1,296(本体¥1,200)
永井愛 / 而立書房
2016/01出版
ISBN : 9784880593913
価格:¥1,620(本体¥1,500)
「熱き涙」を流す人から、「冷ややかに笑う」作家へと変貌してゆく一葉の”宇宙”を人々との豊かな交流の中に描く。[ウェブストア書誌より]
ヴァ-ジニア・ウルフ、片山亜紀 / 平凡社
2015/08出版
ISBN : 9784582768312
価格:¥1,296(本体¥1,200)
インゲボルグ・バハマン、中村朝子 / 青土社
2011/01出版
ISBN : 9784791765799
価格:¥4,104(本体¥3,800)
新時代の到来を感性豊かに捉え、不条理の世界と真摯に向きあう―。
ツェランとの「往復書簡」刊行を契機に、世界的注目を集める詩人の、全詩作を日本初公開。[ウェブストア書誌より]
スザン・ソンタグ、デイヴィッド・リ-フ / 河出書房新社
2010/12出版
ISBN : 9784309205540
価格:¥3,456(本体¥3,200)
20世紀アメリカを代表する知識人による、14歳から30歳までの日記とノート。
激動する時代と個人のあらわな記録。[ウェブストア書誌より]
ハンナ・ア-レント、志水速雄 / 筑摩書房
1994/10出版
ISBN : 9784480081568
価格:¥1,620(本体¥1,500)
フラナリ-・オコナ-、サリ-・フィッツジェラルド / 筑摩書房
2007/03出版
ISBN : 9784480836434
価格:¥4,536(本体¥4,200)
死を見つめながらも、自らを作家へと育てた成長と成熟の軌跡をたどる。
本邦初訳。[ウェブストア書誌より]
ポ-ル・モラン、山田登世子 / 中央公論新社
2007/09出版
ISBN : 9784122049178
価格:¥925(本体¥857)
才能を華開かせ一大モード帝国を築いたカリスマの知られざる半生記が忠実な訳によって甦る。[ウェブストア書誌より]
石牟礼道子 / 藤原書店
2014/01出版
ISBN : 9784894349407
価格:¥2,376(本体¥2,200)
前史を含め、幼少期から戦争体験を経て、高度経済成長へと邁進する中で、『苦海浄土』を執筆。
「近代とは何か」を、失われゆくものを見つめながら描き出す白眉の自伝。[ウェブストア書誌より]
(新宿本店・梅﨑実奈)