今秋、短篇集『地鳴き、小鳥みたいな』(講談社)、エッセイ『試行錯誤に漂う』(みすず書房)が刊行された保坂和志。「私は小説はとにかく作品でなく日々だ。」という小説家に、学生時代より保坂和志を研究(?)してきた文学批評の伊藤亮太が迫る――「何のためでもなく、ただ書くことへの衝動と、そうして書かれたものから受けとってしまうもの、などについて話してみたい」。参加者のみなさんからも、保坂和志にどんどん疑問・質問が投げかけられることを願っています。
保坂和志 ほさか・かずし
1956年山梨県生まれ。鎌倉で育つ。早稲田大学政治経済学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年「この人の閾(いき)」で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2013年『未明の闘争』で野間文芸賞を受賞。その他の小説に、『猫に時間の流れる』『残響』『カンバセイション・ピース』『朝露通信』『地鳴き、小鳥みたいな』など。小説論・エッセイに『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』『考える練習』『遠い触覚』など。絵本に『チャーちゃん』(画 小沢さかえ)がある。
伊藤亮太 いとう・りょうた
1985年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部在籍時に「保坂和志の会」へ入会し、現在は会の運営を行う。早稲田大学大学院文学研究科博士課程在学。フランス文学・哲学専攻。専門はモーリス・ブランショ。論文に「『事の次第』を読むモーリス・ブランショーサミュエル・ベケットにおける分身と演劇」、「モーリス・ブランショ『文学空間』におけるコミュニカシオンについて」などがある。
概要
日程:2016年11月20日 (日)
時間:17:00 〜 18:30 開場 16:30
料金:1,080円(税込)
定員:110名様
会場:本店 大教室
お問合せ先
青山ブックセンター 本店
03-5485-5511 (10:00~22:00)
書籍情報
『試行錯誤に漂う』
「私がこの“試行錯誤”ということを最初に思ったのは、パブロ・カザルスの、バッハの『無伴奏チェロ組曲』を弾いているときに聞こえる、弦の上を指が動いてこすれる音と弓が弦に触れる瞬間の音楽になる一瞬間の音だった。どちらもノイズということだが、私はこれを最高級の蓄音機でSPレコードを再生してもらって聴くと、奏者と楽器が自分がいまいるまったく同じこの空間にいると感じられるほどリアルという以上に物質的で、その音からブルースが聞こえた。
弦の上を指が動いてこすれる音や弓が弦に触れる瞬間の音はだからノイズではない。その音が弦楽器を弦楽器たらしめ、チェロをチェロたらしめる。カザルスが弾いた音の中にブルースの響きまであったのではなく、そのこすれる音の中にカザルスの演奏がありブルースもあった。弦楽器が譜面=記号で再現可能な行儀のいい音の範囲を出るときに、奏者の指も体もそこにあらわれ、肉声もあらわれる。(…)
表現や演奏が実行される前に、まずその人がいる。その人は体を持って存在し、その体は向き不向きによっていろいろな表現の形式の試行錯誤の厚みに向かって開かれている」
(本書「弦に指がこすれる音」より)
「私」をほどいていく小説家の思考=言葉。
芸術の真髄へいざなう21世紀の風姿花伝
2,700円+税
みすず書房