土星探査機カッシーニとそこから放出されたホイヘンス・プローブによって、土星の衛星タイタンにメタンの湖や海が発見され、最近では太陽系からわずか39光年の距離にある赤色矮性トラピスト1の周りにも、生命が存在できる可能性のある惑星が発見された。そこで生まれているかもしれない地球外知的生命体は、洞窟壁画を描いた人間がそうであったように、その初期の段階から何らかの芸術的な活動を行っているに違いない。逆にパイオニアやボイジャーのような太陽圏外へと飛行する宇宙機に芸術作品を搭載することができるとすれば、僕らは一体どのような作品を制作することができるのか。人間を前提としてきた既存の芸術の枠組みを超えて、人間を前提としない、他者のための芸術を僕らは制作することができるのか。芸術における観測問題、人間原理を僕らは超えることができるのか。
今回の出版記念イベントでは、ゲストとして地球生命の起源やアストロバイオロジー(宇宙生物学)を専門とする2人の研究者をお迎えし、「地球外生命」に関する最新の研究の動向を伺いながら、そこから生まれる新たな芸術の可能性をさまざまな観点から思索(スペキュレート)する。科学も芸術も、そのフロンティアを目指す気持ちは同じである。科学者の広範な探究心や好奇心を、美や芸術の未来と交錯させることで、美術やデザインの想像力を、少しでも押し広げていきたい。
青野真士
東京工業大学 地球生命研究所
https://members.elsi.jp/~masashi.aono/
1977年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部(SFC)准教授/東京工業大学地球生命研究所(ELSI)フェロー。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程後期課程修了、博士(理学)。以降、複雑系科学や自然計算といった、自然現象を創発的計算課程として捉える研究を専攻。理化学研究所とJSTさきがけにて、粘菌アメーバに学んだ革新的コンピュータの研究を進め、ナノデバイスの物理ダイナミクスや揺らぎを活用する非ノイマン型コンピュータの開発に取り組む。平成28年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」受賞。東工大ELSIでは、地球生命の起源を明らかにするべく、化学進化実験と創発計算モデルを組み合わせたアプローチを提唱。
関根康人
1978年生まれ。東京大学大学院理学系研究科准教授。
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、博士課程を修了。同大学大学院新領域創成科学研究科助教、講師を経て現職。太陽系における大気や海洋を持つ天体の形成と進化、そこでの生命存在可能性に興味を持ち、日夜研究を行っている。特に、火星や氷衛星エウロパ、エンセラダス、タイタンの環境を再現する室内実験を得意とし、2015年にはエンセラダスの地下海に生命を育みうる熱水環境が現存することを明らかにした。著書に『土星の衛星タイタンに生命体がいる!「地球外生命」を探す最新研究』(小学館新書/2013年)があり、他には『科学者18人にお尋ねします。宇宙には、だれかいますか?』(河出書房新社/共著/2017年)、『系外惑星の事典』(朝倉書店/監修/2016年)にも関わっている。
久保田晃弘
1960年生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース教授/メディアセンター所長。東京大学大学院工学系研究科船舶工学専攻博士課程修了、工学博士。数値流体力学、人工物工学(設計科学)に関する研究を経て、1998年から現職。世界初の芸術衛星と深宇宙彫刻の打ち上げに成功した衛星芸術プロジェクト(ARTSAT.JP)をはじめ、バイオメディアアート(BIOART.JP)、自然知能と美学の数学的構造、ライブコーディングと自作楽器によるライブ・パフォーマンスなど、さまざまな領域を横断・結合するハイブリッドな創作の世界を開拓中。芸術衛星1号機の「ARTSAT1:INVADER」でARS ELECTRONICA 2015 HYBRID ART部門優秀賞をチーム受賞。「ARTSATプロジェクト」の成果で、第66回芸術選奨文部科学大臣賞(メディア芸術部門)を受賞。
主な著書に『消えゆくコンピュータ』(岩波書店/1999年)、『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック─拡散する「音楽」、解体する「人間」』(大村書店/監修/2001年)、『FORM+CODE―デザイン/アート/建築における、かたちとコード』(小社刊/監訳/2011年)、『ビジュアル・コンプレキシティ―情報パターンのマッピング』(小社刊/監訳/2012年)、『Handmade Electronic Music―手作り電子回路から生まれる音と音楽』(オライリー・ジャパン/監訳/2013年)、『[普及版]ジェネラティブ・アート―Processingによる実践ガイド』(小社刊/監訳/2014年)、『スペキュラティヴ・デザイン―未来を思索するためにデザインができること』(小社刊/監修/2015年)、『バイオアート―バイオテクノロジーは未来を救うのか』(小社刊/監修/2016年)、『未来を築くデザインの思想―ポスト人間中心デザインへ向けて読むべき24のテキスト』(小社刊/監訳/2016年)などがある。
概要
日程:2017年4月9日 (日)
時間:14:00~15:30 開場 13:30
料金:1,350円(税込)
定員:110名様
会場:本店 大教室
お問合せ先
青山ブックセンター 本店
電話:03-5485-5511
受付時間:10:00~22:00
書籍情報
『遙かなる他者のためのデザイン』
本書は、メディアアートの実践者として、 また教育者として、最先端を走り抜けてきた久保田晃弘が、脱中心(=固着した人間中心主義から脱却すること、すなわち人間、ひいては社会が変わることを前提とした経験的想像力を超えたものづくり)を志向しながら、工学から芸術へ、「設計」から「デザイン」へと展開した、20年にわたる思索と実装を辿るデザイン論集です。
いま、何をつくったらいいのか?
見たことのないものを、なぜ人はつくれるのか?
真に新しいものをつくりだすということは、どういうことなのか?
人工知能が超知能になるポスト・ヒューマンの世界を見据え、デザイナーは足元に穴を掘り続けるのではなく、遠くへ行くための道をつくらなければなりません。「科学技術が社会に普及浸透していくためには、文化的、芸術的なアプローチが必要不可欠である」という視点から出発し、「一体何が、これからのデザインや芸術になり得るのか?」を常に探求してきた久保田の予見に満ちた言説は、テクノロジーとともに更新されゆく私たち人間、そして社会の未来を鮮やかに照らし出します。
※本書は、久保田晃弘による1997年〜2017年のテクストを選出し、書き下ろしを加えて再構成したものです。過去のテクストは全文収録または抄録であり、加筆修正を施しました。(ビー・エヌ・エヌ新社 編/松井茂 解題)