近代化の号令のもとに変質を遂げ、便利さの追求が加速されていった明治以降の日本で、ものを作ること、そして、自分たちの担ってきた文化の本質をなんとか健全に後世にのこしてゆこうとする営みとはどういうものだったのでしょう。
それまでなかった新しい価値観のもとに、はっきりと区切られた「職人」と「芸術家」という二つの異なるありかた。そのはざまで、職人の矜恃をもちつづけながら「実用」と「美」の境界を乗り越えたのが、刀工家に生まれ、廃刀令後の時代に大工道具鍛冶として名を上げた千代鶴是秀(ちよづる・これひで 明治7―昭和32)でした。
「数十年前の日本に、こんなすごい人がいたのか」「日本の大工道具文化がこんなに精緻で豊かなものだったのか」――そんな驚きとともに、是秀の作品と生き方を通して日本の文化、社会の意識の変化を考えさせずにはおかない、道標の書。
近代化とはいったい何か。わたしたちは、これからどう生きていけばいいのか。武術研究者の甲野善紀さんをゲストに、著者の土田昇さんと一緒に考えます。
土田昇 つちだ・のぼる
1962年、東京生まれ。三軒茶屋の土田刃物店三代目店主。生前の千代鶴是秀のもとに通いつめた父・土田一郎より引き継いだ是秀作品の研究家であるとともに、木工手道具全般の目立て、研ぎ、すげ込み等を行う技術者でもある。竹中大工道具館(神戸)の展示・研究協力。ものつくり大学技能工芸学部、非常勤講師。テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」に鑑定士としても出演。
著書『千代鶴是秀――日本の手道具文化を体現する鍛冶の作品と生涯』『千代鶴是秀写真集 1・2』『時間と刃物』『「室内」の52年』など。
甲野善紀 こうの・よしのり
1949年東京生まれ。武術研究者。20代の初めに「人間にとっての自然とは何か」を探求するため武の道に入り、1978年に「松聲館道場」を設立。以来、剣術、抜刀術、杖術、槍術、薙刀術、体術などを独自に研究する。その技と術理がスポーツに応用されて成果を挙げ、その後、楽器演奏や介護、ロボット工学などの分野からも関心を持たれるようになった。フランスやアメリカから招かれて講習を行ない、日本を代表する柔道選手や指導者などとも実際に手を合わせて指導をしている。2007年から3年間、神戸女学院大学の客員教授。著書に『剣の精神誌』『武道から武術へ』『できない理由は、その頑張りと努力にあった』、共著『自分の頭と身体で考える』『薄氷の踏み方』など多数。
概要
日程:2017年5月31日 (水)
時間:19:00~20:30 開場 18:30
料金:1,350円(税込)
定員:50名様
会場:本店内 小教室
お問合せ先
青山ブックセンター 本店
電話:03-5485-5511
受付時間:10:00~22:00
書籍情報
『職人の近代――道具鍛冶千代鶴是秀の変容』
土田 昇/著 秋山 実/写真
3,700円+税
大工道具鍛冶の「最後の名工」、千代鶴是秀(1874-1957)。機能美の極致のような是秀の製作品の中で、唯一ほかと異なるたたずまいをもつのが一群のデザイン切出小刀。道具が道具でなくなるギリギリの地点に位置する美しく流麗な切出小刀を、是秀はなぜ作ったのか。職人、技術者、芸術家、文化人たちの関わりの中で形成された、その作風変化の謎を、時代という大きな背景の中でときほぐす。