このたび、中世イタリアの詩人ダンテ・アリギエリの叙事詩『神曲』全3篇「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の新訳が講談社学術文庫より刊行されました。翻訳を手がけたのは、コミック『チェーザレー破壊の創造者』(惣領冬実著)の監修者で、イタリア文学の研究者でもある原基晶さん(東海大学専任講師)。日本語の新訳は半世紀ぶりで、最新のダンテ研究の賜物といえる記念すべき訳業です。
イタリアが生んだ最高の詩人ダンテが14世紀初めに著した『神曲』は、「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の3篇からなり、さらに各篇は33歌からなりますが、「地獄篇」冒頭に置かれた三篇の全体の序歌を加えれば、合計100歌となります。詩型は三行一連で全体では1万4233行におよび、文学、美術、現実の政治にいたるまで多大な影響を与えた、キリスト教文学の最高峰とされる叙事詩です。
主題は生身の存在であるダンテが、地獄、煉獄、天国の三界、すなわち彼岸の世界を遍歴した末に、ついには神との出会いを果たすというところにあり、歴史的事実を死後の世界に投影した詩を通じて、人類に正しい道を指し示そうとした作品です。
ダンテは何故この叙事詩を書いたのでしょう。そして『神曲』はなぜ西欧に、それほどまでに巨大な影響をもたらすことになったのでしょうか。
今回は、新訳の刊行を記念して美術ライターの橋本麻里さんを聞き手として、訳者である原基晶さんに『神曲』の内容や当時の受容のされ方などについてお話しいただき、それがなぜ/どのようにイタリア・ルネサンス期以降の文化や政治、宗教に影響を与えたのか、現代にいたるまでの影響力の広がりについて学ぶとともに、「弱い立場」であるはずの文学が持ちうる力について考えていきたいと思います。
原基晶訳『神曲』とは
イタリアの詩人ダンテ・アリギエリの叙事詩『神曲』は、中世を閉じ、ルネサンスへの扉を開けた、と言われる叙事詩です。新訳は、テクストの安定性で評価の高いペトロツキ版(1968年刊)を訳出の軸とし、原典に忠実、かつ平明な表現を心がけています。訳注は可能な限り当該の見開き内に収め、詩のリズムを崩すことなく読める工夫をしました。巻末の各歌解説では、最先端の研究成果を盛り込みながら難解なアレゴリー(寓意)という技法を読み解き、日本の読者に初めてその世界への通路を開きました。ダンテ『神曲』の訳本の決定版となるでしょう。
準備中
原 基晶はら・もとあき
1967年生まれ。東京外国語大学外国語学部イタリア語学科卒業。同大学院博士前期課程修了。イタリア政府給費留学生。東京学芸大学、お茶の水女子大学講師などを歴任。現在、東海大学専任講師。専攻は、イタリア文学、中世ルネサンス文化。
橋本麻里
橋本麻里はしもと・まり
日本美術を主な領域とするライター、エディター。
明治学院大学・立教大学非常勤講師、高校美術教科書(日本文教出版)の編集・執筆。著書に集英社クリエイティブ『京都で日本美術をみる【京都国立博物館】』、新潮社とんぼの本『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』、幻冬舎新書『日本の国宝100』、「Casa BRUTUS」ムック『ニッポンの老舗デザイン』。共著に新潮社『恋する春画』『運慶 リアルを超えた天才仏師』『チェーザレ・ボルジアを知っていますか?』など。
原基晶×橋本麻里トーク&レクチャーダンテ『神曲』の衝撃〜14世紀の叙事詩は西欧文化に何をもたらしたのか〜