吉川さんの新著『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』に、大澤さんは以下のコメントを寄せてくださいました。
「行動経済学が人間には不合理なところがあると実験によって示し、進化の血縁淘汰説がそこにも合理性があるのだと主張し、倫理的判断をめぐって脳科学が脳には複数のチャンネルがあるらしいことを発見し…といろいろなことを知ったおかげで、私たちは自分のことをよく理解できるようになった…だろうか? 否、である。厖大な情報の断片の中で、結局人間とは何なのか、ますますわからなくなった。私たちは、細い路地に迷い込んでしまったようだ。本書は、今日の認知科学の全体が、人間について何をどこまで明らかにし、どこからが未知なのかを示す、まことに正確で信頼にたる地図である。」
吉川さんの著作は『資本論』草稿のマルクスの言葉からタイトルを借りています。一見逆説的です。しかし、どうやら逆説ではない。マルクスの言葉──人間の解剖は猿の解剖のための鍵である──を読み解くことから、おふたりにお話を始めていただこうと思います。
大澤さんの『憎悪と愛の哲学』では、「宗教が社会現象なのではなく、社会の方こそが宗教現象である」という言葉が引かれ、「資本主義の神」が論じられます。「資本主義社会=無神論」と思う私たちはここでも逆説に出会います。さらに、「汝の敵を愛しなさい」というキリストの逆説的言明にも興味深い考察が加えられています。
現代は人間概念に地殻変動が生じてしまった時代、人間をどう定義すればよいか、共通の理解がない時代です。そんなとき、「私たちは、人間をなんだと思ってきたのか。」を振り返ることにも意味があるだろうと思うのです。
上に述べたいくつかの逆説を糸口に、「人間再入門」とそんな時代の「人間解放の理論」をおふたりに論じていただきます。そもそも、人間とその謎の同定がなければ、理念も理論も土台から崩れてしまいかねません。果たして現在の課題は何であるか、おふたりのお話を聴きながら、考えてみたいと思います。
【プロフィール】
大澤真幸(おおさわ・まさち)
1958年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。
主な著書に『行為の代数学』、『身体の比較社会学』、『虚構の時代の果て』、『ナショナリズムの由来』、『不可能性の時代』、『〈自由〉の条件』、『〈世界史〉の哲学』(古代篇、中世篇、東洋篇、イスラーム篇、近世篇)、『夢より深い覚醒へ』、『自由という牢獄』、『憎悪と愛の哲学』などがあり、永井均氏との共著に『今という驚きを考えたことがありますか』がある(主宰する『THINKING「O」』最新号)。「〈世界史〉の哲学」(『群像』)、「社会性の起原」(『本』)を連載中。
吉川浩満(よしかわ・ひろみつ)
1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。国書刊行会、ヤフーを経て、文筆業。関心領域は哲学・科学・芸術、犬・猫・鳥、卓球、ロック、映画、単車など。
主な著書に『理不尽な進化──遺伝子と運のあいだ』、『脳がわかれば心がわかるか──脳科学リテラシー養成講座』(山本貴光との共著)、『問題がモンダイなのだ』(山本との共著)があり、訳書にジョン・R・サール『マインド──心の哲学』(山本との共訳)、M・セットガスト『先史学者プラトン――紀元前一万年―五千年の神話と考古学』(山本との共訳)がある。最新刊は『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』。
【開催日】
2018年9月6日(木)
【時間】
19時30分スタート/21時頃終了予定 *イベント当日、お店は18時にてクローズ致します
【会場】
Title 1階特設スペース
【参加費】
1000円+1ドリンク500円
【定員】
25名
※当イベントは定員に達しましたので受付を終了いたしました