2015/06/21(日)
大阪出身の在日コリアンのヤン ヨンヒさんは、「帰国事業」で北朝鮮にわたった三人の兄を中心に、ふたつの国のあいだで引き裂かれるかぞくの物語を描いてきました。済州島出身で朝鮮総連幹部の父親、北朝鮮で「帰国者」として暮らす兄。どうにも動かしがたい無情な現実のなかで、嘆きながら、笑いながら、様々な問題に立ち向かい、生きる道を探していく人びとの日常を、けして声高にではなく、淡々と描いています。
一方、このたび『断片的なものの社会学』を上梓した岸政彦さんは、沖縄を中心に、個人のライフヒストリーを聴き取りながら、アイデンティティや差別について考えてきました。はじめてのエッセイ集となる『断片的なものの社会学』では、著者が一瞬すれちがった様々な人びと──夜の仕事をしている女性や、元ヤクザや、路上のギター弾きのおっちゃんや、大阪の普通のおばちゃんや、学生や、猫や犬――との断片的な出会いを通して、人生の偶然性や、生きることの孤独や、そこにあらわれる社会的なものについて考えています。
ヤン ヨンヒさんも、岸政彦さんも、ある社会のなかで「よそ者」として生きること、一人ひとりが抱える人生の物語を語ること、そしてそのことで、「壁」の向こうの「ふつうの人」への共感を取り戻すことを、重要なテーマとして、表現・研究活動をされてきました。
『断片的なものの社会学』の「祝祭とためらい」と題する章において、岸政彦さんは、ヤン ヨンヒさんの映画「かぞくのくに」に触れながら、他者と出会うことの喜びを分かち合うことと、他者の領域に踏み込まず立ち止まることとが、ともに私たちには欠けていると語っています。
ますます排他的に、狭量になっていく世界のなかで、他人を理解するひとつの入り口として「個人のライフヒストリー」があります。そして同時に、それは、容易な理解を拒むものでもあります。今回、『断片的なものの社会学』の刊行記念として、このお二人に、一人ひとりが隠し持つ人生のストーリーについて、それを語るということについて、その語りのなかにあらわれる国や社会について、存分に語っていただきます。ぜひお越しください。
日時:6月21日(日) 午後2時~
会場:西武池袋本店別館8階 池袋コミュニティ・カレッジ 4番教室
参加チケット:1,000円(税込)
チケット販売場所:西武池袋本店書籍館地下1階リブロリファレンスカウンター
(10時~22時受付/イベント当日は午後1時10分まで受付、その後1時30分より会場入口にて受付予定です)
お問合せ:リブロ池袋本店 03-5949-2910
プロフィール:
岸 政彦(きし・まさひこ)
1967 年生まれ。社会学者。大阪市立大学大学院文学研究科単位取得退学。博士(文学)。龍谷大学社会学部教員。研究テーマは沖縄、被差別部落、生活史。著書に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版、2013 年)、『街の人生』(勁草書房、2014 年)など。
ヤン ヨンヒ
1964年11月11日大阪府大阪市生まれ。ニューヨークのニュースクール大学大学院修士号取得。6年間ニューヨークに滞在後、初の長編ドキュメンタリー映画「ディア・ピョンヤン」を発表しベルリン国際映画祭ほかで受賞。2012年初の劇映画「かぞくのくに」を発表、ブルーリボン賞作品賞、讀賣文学賞ほか映画賞、文学賞多数受賞。