11月下旬よりシアター・イメージフォーラムにて公開となる映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』を記念し、青山ブックセンター本店にて、日本語字幕を担当した柴田元幸氏をお招きしトークイベント&サイン会を行います。
ソール・ライターは、1940年代から絵画のように豊かな表現力でニューヨークを撮影したカラー写真の先駆者であり、「ハーパーズ バザー」や「ヴォーグ」など有名ファッション誌の表紙も飾った写真家です。
しかし、写真に芸術性よりも商業性が強く求められはじめた80年代、彼は表舞台から姿を消してしまいました。ところが2006年、写真集で定評のあるドイツのシュタイデル社から、それまで封印されていた個人的な写真などをまとめた初の作品集が出版されると、80歳を超えた”巨匠の再発見”は世界中で熱狂的に迎えられ、今も多くの国で回顧展や出版が続いています。いま、彼の写真が私たちの心に強く響くのはなぜなのか?
今回、青山ブックセンター本店では、日本語字幕を担当された柴田元幸氏をお迎えし、字幕制作を引き受けられた理由から、その制作のエピソードなど、映画の魅力とともにたつぷり語っていただきます。また、事前に収録したロンドンのトーマス・リーチ監督と柴田さんのSkypeトークの映像もお届けする予定です。
ぜひ、この機会にご来場ください。皆様のお越しをお待ちしております。
柴田元幸氏コメント
この映画には、ものすごく盛り上がる感動的な場面もないし、涙なしでは見られないような派手に胸を打つシーンもないし、 愛の素晴らしさを朗々と謳い上がるような展開もありません。あるのは、生涯おおむね好きなように生きてきて、そのせいでそれなりに辛い思いもしただろうけど、べつに後悔もしていないし、引け目を感じたりもしていない人が、自分の人生観をぽつぽつと語る姿です。彼が撮った素晴らしい写真も随所に挟みこまれるし、彼を敬愛する人たちのあたたかい視線が感じられたりもするのですが、基本的には、猫背のおじいさんがのそのそ動きながらもごもご喋っている映画です。でも、それが、とてもいい感じだと思うのです。 まったく個人的な話になってしまいますが、このソール・ライターという人の笑顔は、誰かに似ている、とずっと思っていたのですが、あるときふっと、これは僕に文学の素晴らしさを最初に教えてくれた中学の国語の先生の笑顔と同じだと思いあたりました。
*今回のイベント料金にはシアター・イメージフォーラムにて使用可能な前売鑑賞券料金が含まれております。
柴田 元幸しばた もとゆき
1954年東京生まれ。アメリカ文学研究者、翻訳家。
著書に「生半可な学者」(講談社エッセイ賞 受賞)、「アメリカン・ナルシス」(サントリー学芸賞受賞)、「バレンタイン」など。ポール・オースター、レベッカ・ブラウン、スティーブン・ミルハウザー、フィリップ・ロスなど、現代アメリカ文学を数多く翻訳し、日本の文学シーンに多大な影響を与える。訳書トマス・ピンチョン 「メイスン&ディクスン」で日本翻訳文化賞を受賞。東京大学文学部 特任教授。文芸誌「MONKEY」編集人。
聞き手:大野留美(配給/テレビマンユニオン)