現在、東京国立近代美術館で「高松次郎ミステリーズ」展が開催されています。高松次郎(1936-1998)の本格的な回顧展としては、首都圏で10年ぶりの開催です。3章構成のうち1章ずつを3人の学芸員が担当したり、会場構成をトラフ建築設計事務所が、グラフィック・デザインを菊地敦己さんが、それぞれ手掛けたりと、さまざまに工夫が凝らされ、見どころもいっぱいです。
1960年代にアーティストとしてスタートを切った高松は、赤瀬川原平や中西夏之らと結成した「ハイレッド・センター」で活動した後、次第に制作の領域を拡大していきます。その作品は、おかしな遠近法の椅子とテーブル、砕いたレンガ、傾いた椅子、写真の写真、小数点以下の数字を書き込んだ石など、謎めいたものばかり。さらに70年代後半からは、カラフルな絵画作品も制作します。
そんな高松は、芸術について、「もし、現在でも芸術に存在意義があるとしたら、その難解さにおいてだろうと思います。作品の内容が“問い”という形でしか成立しえないことを意識している作家たちに、その答えの分かりやすさを要求するには酷というものです」(本展カタログ11頁より抜粋)と述べています。
では、今日芸術は、わたしたちにどのような問いを投げかけているのでしょうか。
今回は、マルセル・デュシャン(1887-1968)の検証をライフワークにされているいとうせいこうさんと、本展を担当する学芸員のお1人、蔵屋美香さんをお迎えし、デュシャンから高松次郎につながる系譜が投げかける問いについて考えます。
難解さゆえに、ぱっと見ただけではわからない、解説を読んでも哲学書のようで手ごわい、と、ともすれば敬遠されがちな彼らの作品。今回のトークが、みなさんとともに彼らの思考世界をじっくりと読み解く機会になればと思います。
展覧会情報
高松次郎ミステリーズ
2014年12月2日(火)〜2015年3月1日(日)
東京国立近代美術館
展覧会公式サイト:http://www.momat.go.jp/Honkan/takamatsujiro/
いとうせいこう
1961年東京都生まれ。音楽や舞台、映画などの分野でも活躍。小説に『ノーライフキング』『ワールズ・エンド・ガーデン』『波の上の甲虫』『想像ラジオ』、エッセーに『ボタニカル・ライフ』(講談社エッセイ賞)など。奥泉光らとの共著に『文芸漫談』、みうらじゅんとの共著に『見仏記』もある。
公式WEBサイト:http://www.cubeinc.co.jp/ito/
撮影:森本菜穂子
蔵屋美香
くらや みか
千葉生まれ。千葉大学大学院修了。東京国立近代美術館美術課長。おもな展覧会に「ヴィデオを待ちながら―映像、60年代から今日へ」(2009年、東京国立近代美術館 三輪健仁と共同キュレーション)、「ぬぐ絵画―日本のヌード 1880-1945」(2011-12年、同 第24回倫雅美術奨励賞)、第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館キュレーション(2013年、アーティスト:田中功起 特別表彰)、「泥とジェリー」(2014年、東京国立近代美術館)、「高松次郎ミステリーズ」(2014-15年、同)など。おもな論考に「麗子はどこにいる?―岸田劉生 1914-1918の肖像画」など。