一言で「印刷」といっても、日本中には多種多様な印刷が息づき、魅力的な印刷物がたくさんつくり続けられている。しかし時代の流れとともに、残念ながら淘汰されてしまった印刷も多い。鉛活字を使った活版印刷もそのひとつで、絶滅してしまうのでは、と危惧をされているが、実はそれよりも更になくなってしまう寸前、風前の灯な印刷がある。それが「エングレービング(銅版印刷)」と「罫引き」だ。
どちらもその印刷にしかできない魅力を持っていながらも、現在の日本では、手がけている会社はぞれただの一社ずつ。エングレービングは「銅版印刷株式会社」が、罫引きは「井口罫引所」が、その最後の印刷を手がけている。両社がなくなってしまったら、もう頼みたいと思っても絶対に頼むことができなくなってしまう。でも、それはあまりにもったいなさ過ぎる。
その貴重な印刷の火を消さないためにも、それぞれの印刷について、実際に手がけている人の話を聞き、自分でも使ってみたいと思ったら頼んで見る。それが一番いい方法だ。
エングレービングは、手彫りと腐食を組み合わせてつくった、銅製の凹版を使って、インキを盛り上げてすることができる印刷方法で、盛り上がったインキの手触りはもちろん、他の印刷では出せない、上品で美しいメタリック色、非常に細いラインまで出る再現力等、「フォーマルプリント」と称されるにふさわしい、格調高い印刷ができる。
罫引きは、その名の通り、ノートや帳面の罫線を引くための印刷技術。現在はほとんどのノートがオフセット印刷でつくられているが、昔からノートの定番「ツバメノート」では、今でも多くのノートにこの罫引きをつかってノートづくりが行われている。さて、その「罫引き」とはどんな手法なのだろうか。
2月上旬に刊行された『デザインのひきだし24』の特集「印刷大図鑑」でも紹介し、実物綴じ込みしているこの二つの印刷について、今回のイベントでは、エングレービングを手がける銅版印刷株式会社の代表取締役であり、また銅版職人でもある鈴木聡さんと、罫引きをつかって今でもずっとつくり続けられているツバメノートの渡邊精二さんにお出でいただき、それぞれの印刷の特徴や良さ、どうやって頼めるかといった話から、どうしても今でもツバメノートでは罫引きを採用し続けているのか、井口罫引所の映像上映等を通じて、この貴重な二つの印刷にググっと迫ります。(司会:デザインのひきだし編集部 津田淳子)