2019年6月25日(火)

(6月25日まで開催中)「弁造さんのエスキース展――今日も完成しない絵を描いて」 奥山淳志『庭とエスキース』(みすず書房)出版記念

5月に刊行された奥山淳志『庭とエスキース』の出版を記念して、本書の主人公、井上弁造さんのエスキースを初展示いたします。

〈いつまでも完成しない絵を描き続ける。僕が弁造さんを見つめたのは、1998年から2012年までの14年間でしたが、弁造さんという人はいつもそうでした。ひと部屋しかない小さな丸太小屋のなかでイーゼルに向き合い、女性をモチーフにした“エスキース”ばかりを描き続けました。南国を思わせる木陰で横たわる裸の女性。自慢の髪をかきあげる女性。何気ないひとときを過ごす母と娘。北海道で畑と森からなる「庭」を作って自給自足の生活を続け、生涯を独身で過ごした弁造さんがなぜこのような縁もゆかりもない女性たちを描き続けたのか。それは僕にとって、“弁造さん”を知るうえで欠かすことができない問いかけでした。
しかし、弁造さんは女性たちを描く理由を語らぬまま、92歳の春にプイと逝ってしまいました。でも、だからなのでしょう。弁造さんが逝ってしまって7年の月日が流れた今日であっても、僕は新たな想像を抱くことを許されます。鮮やかな向日葵色をまとった女性たちのおしゃべりに耳を傾け、弁造さんの胸の内を思い描き、そのたびに新たな弁造さんから“生きること”の奥深さを見つけるのです。
弁造さんがいなくなってしまった丸太小屋にはたくさんのエスキースが遺されていました。その一枚一枚に描かれた筆跡を辿りながら、弁造さんの“生きること”から放たれている光の綾を一緒に感じていただけますように。
写真家 奥山淳志〉

*展示会場にて、特別制作のブックレット(B4変型 40ページ)を限定発売します。
*展示にいたる経緯が綴られたエッセイ「母と娘、小さなエスキースのサイン」もご参照ください。

『庭とエスキース』外伝(奥山淳志)


*会期前日の6月6日(木)夜、奥山淳志さんをお招きしてトーク&スライドショーを行います。
詳しくはこちら

イベント情報の詳細はこちら